これは485日後に引っ越しをする家族の実話である_

This story based on a true story.

 

4人家族構成員
マミィ(40代)

ダディ(50代)
アニィ(小学1年生の兄)
イモゥ(年中さんの妹)


 

エピソード9.
ダディの快感

 


 

 

 

 

 

 

ダディはある日、サンタクロースの役を頼まれた。

 

渋谷区の代々木で10年間も子育て支援を続けている団体から、一年に一度だけ開催するクリスマス会にサンタクロースとして登場して欲しい、と依頼された。

 

 

 

サンタには本来、条件があるらしい。

 

① 容姿がサンタに似ている
② 50歳以上
③ 印象的な口ヒゲがある
④ お腹が出ている(体重110kgが平均)
⑤ サンタに関するトリビアや、最近のアニメや音楽に詳しい

 

5番に合格していると“優秀なサンタ“となる。

 

 

 

そして、アメリカはコロラド州のデンバーというところには、サンタ養成学校があるそうだ。

 

さらに、コロナ禍でサンタの派遣依頼は121%も増加傾向にあるのに、サンタの人材は不足していて昨年より15%も減少しているとのこと。

 

一方で女性サンタの登録者は200人近くいて、だんだん増えているそうだ。

 

    _夕方のニュース番組『newsイット!』より_

 

 

 

ダディは1番2番4番を理由にお願いされた。

 

3番はン・キホーテで調達すれば何とかなるし、5番の条件は必要ないということだったので、ダディは引き受けた。

 

 

ン・キホーテで衣装を探そう。

 

ところが案外、コレといったピンとくる商品が無かった。若者がパーティで仮装するような感じに見えて、布の素材もしっくりこなかった。

 

 

さて困った。

 

 

mazonで探してみよう。

 

今度はあまりにも検索ヒットして、選ぶのに困った。

 

レビューを読んで一喜一憂した。

 

そんな中、サンタ上級者のレビューが多い商品があった。

 

「★★★★★(投稿者)非常勤のサンタ!
クリスマス時期はサンタの格好をして県内の孤児院や保育園などをバイクで廻るイベントに参加するために、サンタ衣装を探しておりました。どうせ買うなら使い捨てにするフェルトの物より、2シーズンは着れるであろう少し高めで洗濯可能なしっかりしたものを買いました。(中略)町に非常勤のサンタが現れる時期ですが、今年は自分も福島県内の小さなお子さんやユーモアの分かる人にはプレゼントを配りたいと思います。」

 

このレビューを読んで購入を決めた。

 

 

 

 

衣装が届いた。

 

ダディはアニィの通学とイモゥの登園のタイミング、彼らの不在時を見計らって試着し、マミィに見せた。

 

マミィは「本物だ!本物だ!」と腹を抱えて笑ってくれた。

 

ダディは嬉しかった。

 

 

 

依頼主である子育て支援団体のスタッフさんにも、試着した写真をLINEした。

 

「いかがでしょうか?大丈夫でしょ…」
「う・か・?」を送信する前に、

 

Mさん「すごい!!完璧です」

 

Tさん「ブーツや手袋、メガネの小物まで、完璧ですね!!」

 

Sさん「ホンモノですね〜!!これはビックリです!!」

 

と返信がかえって来た。

 

ダディは嬉しかった。

 

 

 

 

サンタ担当のスタッフFさんから細かい演出をお願いされた。

 

・セリフは「Hohoho」のみ
・日本語はもちろん、言葉を発っさないでほしい
・写真撮影では、目を極端に細めて、黒眼が写らないくらいニコニコの目、鉛筆で弧を描いたような目にしてほしい
・登場したらプレゼントをお一人お一人に手渡してほしい
・クリスマス会の終了後に2ショット写真撮影に応じてほしい

 

その他、入り時間、着替え場所に鏡が無いこと、入室の際には気配を消すこと、などをお願いされた。

 

 

 

 

いよいよ本番当日

 

___

 

2021年12月15日(水)
スイミーのクリスマス会

___

 

 

前日の寒い雨とは真逆の、暖かな快晴だった。

 

気配を消して“楽屋“に入った。

 

楽屋には衣装が、頭部・上半身・下半身・プレゼントの袋、と仕分けされていた。

 

事前に案内のあった通り鏡が無かったので、サンタのカツラとヒゲと帽子などの顔まわりは、スマホのカメラを自撮り機能設定にして確認した。

 

あとは出番を待つのみ。

 

ドアをゆっくり3回ノックしたら登場する、という段取りだった。
ノックの音の調子もリハーサル済み。

 

 

待つのみ。

 

 

待った。

 

 

ダディはその時を待っていた。

 

 

思いのほか、待った。

 

 

「!」

 

 

サンタのポーズを練習しておこう!

 

 

人さし指を顔の横で立てようか
親指でイイね!にしようか
いないいないばぁをやろうか

 

ポージングを練習したが、どれも上手くいかなかった。

 

ポーズはお願いされていなかったので、やめておこう。

 

 

 

ダディは最終確認のつもりで楽屋からマミィに自撮りを送信した。

 

「爆笑」を変換したフェイスマークが3個、返ってきた。

 

 

 

ダディはワクワクしてきた。

 

 

 

すると、

 

ノック1つ
ノック2つ
ノック3つ

 

サンタさ〜ん!

 

楽屋のドアが開いた。

 

 

 

!!!!!!!!!

 

 

 

ざっと20組のママとキッズの笑顔、笑顔、笑顔。

 

 

「Hohoho」と決め台詞を決めようとしたら

最前列の赤ちゃんが泣いた。

 

 

ダディサンタは申し訳なかった。

 

 

しかし事前に「泣いてしまうベビーちゃんもいるかもしれません」とスタッフさんに聞いていたし、また「ごめんね」と日本語を話してはいけないので、ただただ申し訳なかった。

 

 

登場シーンが終わったのでプレゼントを配る。

 

トナカイ役のスタッフさんが配る順に誘導する、という段取りだったが。

 

ママと子どもたちの方から、サンタの所へやって来てくれた。

 

 

子どもたちはみな赤い色を身につけていて、とっても可愛かった。

 

「ありがとう」をグッとこらえて「Hohoho」

かわいいね、も、こんにちは、も「Hohoho」

 

喋っちゃいけないのは、思いのほかキツかった。

 

一方でニコニコするのは、とても簡単だった。

 

 

 

アニィとイモゥのことを想った。

 

会場にいる20人全員を我が子に思えた。

 

 

 

流れでダンスすることになった。

 

補助をしてくれる予定だったトナカイスタッフさんは、ちっとも近くにいなかった。

 

 

 

踏んだことの無いステップを踏み

とにかくHohoho

あれよあれよと集合写真を撮ったら
会はお開き

 

 

ようやくトナカイさんが近づいてきて
フォトブースに座ってて下さい、と言われた。

 

 

座っていたら2ショット撮影大会がスタートした。

 

ずーっと可愛かった
みんなが可愛かった
こんなに楽しいとは
ここまで楽しいとは思いがけなかった

 

 

ヒーローショーに出演する人、ナマハゲの人、舞台役者さん、ッキーマウス、彼らの快感を多少なりとも感じられた。

 

 

たくさんのママたちに何度もありがとうを言われた

 

 

「Hohoho(ありがとう)」

「ho」だけで喋れるようになった。

 

目も、閉じて開かなくなりそうなくらいニコニコになった。

 

 

あるママさんから「サンタさんかっこいいですね」と言われた

 

 

ダディは嬉しかった!

 

 

 

 

その夜_

 

ダディはダディに戻り

500mlビール1缶と焼酎のお湯割りを2杯飲んだ。

 

格別に美味しかった。

 

「全員が我が子のように可愛かったです」
とトナカイさんに。

 

「その通りです」とトナカイさん。

 

 

 

そうかこれが子育て支援者の気持ちなのか。

 

 

 

ダディは続けて言った。

 

「次は、いつサンタになれますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年12月16日ふみっ記

TOP