林真理子先生のエッセイ『女はいつも四十雀』を175ページまで読んで、176ページ目にしおりとして漢方の“小青竜湯”を挟んである。
小青竜湯は、しょうせいりゅうとう。その昔、妊娠期に咳止めとして処方してもらって以来、体質にとても合うので頼りにしている漢方。わたしは親しみを込めて”青い竜“、夫はブルードラゴンで”B.D.(ビーディー)”と呼んでいる。
5月14日から続いた咳が、ようやく落ち着いて来た。今日は6月2日です。
産後に風邪を引くと、咳だけが治らずに1ヶ月も残ってしまう体質になった。1ヶ月も咳が続くと、はじめの頃は驚いて、よもや違う病気にかかってしまったととても不安になった。
なので、そもそも風邪をひかないことにしている。風邪をひかないと自分に言い聞かせ、腹に決めてそのルールを守っている。
でも5月は違う。
今春、下の娘が晴れて小学生になった。息子(小3)と同じ渋谷区立小学校に通っている。
3月31日まで保育園に通い、4月1日から放課後クラブ(学童)に通った。小学校の入学式よりも放課後クラブの方が先にデビューを果たす。肩書きは小学生だけれど、中身はまだまだ園児とゆう一週間あまりが面白い。
そして入学式当日_
「小学校には行かない」
娘が朝起きて来て言い放った。
「・・・」
わたしはぐうの音も出なかった。
「 Why? 」どうして行かないのかは当然ながら問う。そこから会話が始まるから、つまり…
最初の一句、母親として彼女にかける1フレーズ目が大事なのを知っている。常套句をググってる猶予は無いから、オリジナルの返事を一生懸命に考えた。
あ!そうだ。令和の子育ては確か”受け止める”だったはず。子供の気持ちを否定してはいけない、気持ちに寄り添って真意を引き出し、共感を示して云々カンヌン。
令和の子育てと、わたしが受けた昭和の子育てが異なるので、時々とてもやっかい。
彼女が学校に行かない理由は入学式だった。
要約すると、卒園式は何度も繰り返しリハーサルをやり完璧なゲネプロを経ているから、本番は客席さえ見渡す余裕がある。しかしながら一体全体、入学式って何なんだ。人生で初めての式典だから得体が知れない。保育園に入園式があっただろうが、そんなものは0,1歳そこらで覚えてもいない。娘は「通し稽古もないまま本番の舞台には立てない」というのだ。
女優。彼女は彼女という人生の主役なのだと、この時わたしは悟った。
そんなマリリンモンローに、わたしは返事の仕様がなかった。
実際わたしは上の子の時の入学式に出席しているのだから、ざっと式の流れを説明しようかとも思ったが、わたしは彼女に初めてを経験してほしかった。
だってこれからの毎日、あなたの新生活はほぼほぼ初めてだらけです。
校舎、先生、クラスメイト、ランドセル、教科書、筆箱、下敷き、体操着、授業、休み時間、それらすべてがぶっつけ本番ですよ。
さてどうやって入学式への出席を説得したのか、あんまり覚えていないのだけれど、とりあえずわたしは娘の入学式がとっても嬉しかった。嬉しいから夫とどうしても出席したかった。今日のために二年前のワンピースが入るように、ちょっとだけ減量も頑張ったし。
何やかんやでわたしが行きたがったので娘が着いて来た、というような入学式だった。
正門に到着し、入学式の看板と撮ったブスくれた娘との2ショットは残念だけれど。
いざ本番を迎えたら彼女はやはり女優だった。体育館での入退場の動画には、にこにこした娘が映っている。
「初めてのことなのに、とっても上手だったよ」と、とりあえず褒めて〆るところまでが令和の声かけかな。
ふぅ、疲れた。褒めてほしいのは、わたしですけどね。
さてこれで無事に入学、とはならなかった。
入学式翌日は、入学式と同じ服じゃないと学校に行かない。
その翌日は、髪の毛の分け目が気に入らないから行かない。
翌日は、ボタンが一発で止まらないから行かない。
翌日は、帽子で髪型がくずれたから行かない。
だいたいここらあたりから、わたしは面白くなってきた。さて次はどんな理由かな、とクイズ気分。
この4月の行かないシリーズを真に受けたとて、所詮、ゴールデンウィークで振り出しに戻ることを知っていたので、それなりに令和っぽい声かけをして、それなりに行かせていた。ただし、行ったら行ったで欠かさず精一杯の賛辞を贈った。
彼女は女優。登下校の道はさながらレッドカーペット、そう思い込んだら心からの拍手を贈れた。
そして楽しいゴールデンウィークを過ごし、5月8日の月曜日_
この日が本当の入学日といっても過言ではない。
休み明けに自らの意思で難なく登校できるか否か、それが小学校生活の第一歩だと思っている。
今日は6月2日です。
娘は元気に楽しく新しいお友達と仲良く小学校に通っている。
わたしは5月14日から続いた咳が、ようやく落ち着いて来た。
1年間の中で5月だけは風邪をひいても良いことにしている。
年齢を重ねるに従い、ルールを変えながら生活している。
そして冒頭の『女はいつも四十雀』というエッセイ本※。初版は2019年。中身は2014年〜2019年初出とある。(※雑誌『STORY』の巻頭エッセイをまとめた書籍)
ちょうど私が二人の子供を出産した時期と重なる。当時、出版されてすぐに読みたかった本で、毎日数分あれば軽く読み切れるとも思っていた。
2023年の44歳の今日やっと読めた。
なんか二人の乳幼児期の子育てを終えた象徴のように感じる。
わたしには読書時間が何よりのご褒美!
作家とは何と素晴らしい職業だろう。林真理子先生の文章に元気をもらって、こうしてわたしも文字を綴れた!
そしてもう一つ、わたしがここにこうして久しぶりに書けた理由があるから、また今度投稿しようと思います。
2023年6月2日ふみっ記