当時、夕方のニュースで、世界的なサンタの人材不足が報道された。
サンタ、人材不足、2021でググると、いっぱい出てくるニュース。
報道を見て「ダメじゃん」と顔を見合わせる夫婦。
この夫婦は、ダメ元でサンタ稼業を始めた。
まずはサンタについて勉強した。
幸運なことに、その年のクリスマスイブに、Eテレで『サンタの学校』がOA.された。
サンタ学校は、アメリカのジョージア州にあるそうで、距離と情勢を踏まえると到底行けそうになかった。
ただ番組の中で、ミセスクロース(Mrs. Claus)という存在を知った。
サンタクロースの妻にあたるキャラクターで、19世紀半ばには定着していた文化らしい。
夫婦はクリスチャンではないけれども、サンタになるためのいくつかの条件には該当していたので、取り急ぎやってみることにした。
非常に残念なことに、二人とも英語が話せないので、台詞は「ho ho ho」だけにしている。
案外、乳幼児にはこの台詞だけで通じる。
去年の様子はこちら。
パパサンタ覚醒
初めての経験は素晴らしいものだった。
「毎年やりたい」とボソっとつぶやいた。
サンタ嫁は、これを聞き逃さなかった。
その翌年、2022年のクリスマスシーズン。
今年の出番は2回。
1回目は、渋谷区の子育てサークル“親がめ子がめ”さん。
2回目は、ホームのスイミー。
1回目は、朝からあいにくの雨だった。
京王バス渋68/渋69は、1時間に1本も走っておらず、仕方なくタクシーで会場に向かった。
サンタの横に座って「これから現場に向かいます」と関係者にLINEしていたら、何だか本当にサンタのタレントマネジメントをやっている気分になってウケた。
当の本人は車内で「ho ho ho」の発声練習を繰り返している。
古賀政男音楽博物館の前で下車。
会場の上原社会教育館まで歩いた。
会館の前で1台のタクシーが停まった。
中から、赤ちゃんを抱っこしたママが降りてきた。
あぁ、この母子もまた雨の中タクシーを使って、このクリスマス会場にお越しになったんだ。
私にもかつてそんな雨の日があった。
我が子を抱っこ紐に入れ、雨でどうしようもないからタクシーに乗った。
子育てと雨は相性が悪い。
安全を買えるなら躊躇なくタクシーを使え、と謎の許可を出してくれた先輩ママ友のことも、ついでに思い出した。
「さぁ、サンタ行こう!」
嫁の気合いが入った。
サンタ楽屋入り。
着替え。
Sa「メガネどっちがイイ?」
嫁「どっちも同じじゃん(自前も衣装も丸眼鏡)だったら見える方の眼鏡にしなさいな」
Sa「会場暑いかな、ヒートテックどうしよう」
嫁「かっぷくいい方が良いから、着ててください」
Sa「口元おじさんで気持ち悪くない?」
嫁「白い髭で隠れてるから、たぶん気持ち悪くないよ」
嫁「水分補給」
Sa「うん」
嫁「ベルトの端っこがベロンてなってるから去年の安全ピンで止めよう」
Sa「ピンは万が一お子さんにあたったら危ないから今年はしない」
嫁「んじゃ、このベロンどうする?」
Sa「こうする」
とか何とか準備万端。
待機。
すると、
サンタがウロウロし始めた。
Sa「hor hor hor」
嫁「まだrが入っているから、日本語の“ほー”の発音にしてください」
Sa「ほー、ほー、ほー」
サンタ、着席。
嫁「水分補給」
Sa「うん」
サンタの年齢設定は実年齢よりも上が良いか、とか、歩くスピードはお年寄りのようにゆっくりが良いか、とか、何かめっちゃ聞いてきた。
今更ですねぇ
去年のたった1回の経験値しかないから、現場で急に不安になった様子のサンタ。
Amazonで一番高い衣装をそろえたんだから、衣装が9割。誰がどうみても本物に見えるから、自信を持ちなさい。それに、付け焼き刃の演出など、本物の子どもには通用しない。
あなたはありのままで大丈夫。
そもそも、主役は子どもたちです。
とサンタの背中を押して、
本番へ。
記念写真を撮っただけで、ありがとうと言われたのが光栄だったって。
「来年は4回やりたい。」と、サンタがボソっとつぶやいた。
サンタ嫁はまた、これを聞き逃さなかった。
来年へ、つづく。
2022年12月14日ふみっ記